2016年12月9日から11日にかけて、映画監督である紀里谷和明氏の初演出舞台『ハムレット』が上演された。Poptalk MAGAZINEは初日ゲネプロに潜入。レポートをお届けする。紀里谷和明流『ハムレット』は、極めてシンプルで、だからこそ本質をとらえた作品だった。シェイクスピアの戯曲から要素を抽出し凝縮した脚本、観客の想像力をかき立てる簡素な舞台装置、華美ではないが、それぞれの役者にぴったりと合う上質な衣装。今回の『ハムレット』で「純粋なクリエイティブとは何か、もう一度自分に問い直したい」と語っていた紀里谷さんの思いは、舞台から客席まで、いたるところに活きていた。

簡素な舞台装置と細やかな演出

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『ハムレット』が上演されたのは東京都世田谷区にあるリハーサルスタジオ、スタディオ・アマデウス。けっして広いとはいえない空間にずらりと並べられたパイプ椅子。そして、正方形の舞台が客席の中央に設置されていた。360度、全方位を観客に取り囲まれている状況は、役者にとっては緊張感のあるものだろう。上演がはじまると、そのはりつめた空気感が観客にも伝わったのか、会場全体の不思議な一体感を感じた。

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全編をとおして必要最低限の装置しか使用されないなか、場所や時間の変化、登場人物の感情、シーンがもつ意味を表現するのに効果的に使われていたのが照明だ。鉄格子でできた舞台に上下から照らされる光は、舞台の雰囲気をがらりと変え、役者の表情をより効果的に映し出す。

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前王の亡霊が現れるシーンや、クローディアスが心情を吐露するシーンで照明の色合いを変える演出は、目新しいものではないものの、装置のない簡素な舞台だからこそ、観客の意識を切り替えるのに非常に効果的だったように思う。

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また、今回の舞台で特徴的だったのが「霧」による演出だ。幻想的な雰囲気を醸し出すスモークがさまざまなシーンで使われていた。

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そして、印象的なシーンでは舞台中央から霧が降り注ぐ。ハムレットが芝居を通してクローディアスの本性をあぶり出そうと決意するシーンでは、鮮血のような赤い霧が降り注ぎ、憎しみと復讐の念に絡め取られた人間の末路を暗示しているかのようだった。

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一歩間違えれば陳腐になってしまいそうな直接的な演出だが、ハムレット役の室屋翔平の鬼気迫る演技によって、脳裏に焼き付いて離れない印象的なシーンになっていた。

無名の役者たちの荒削りで体当たりな演技

脚本が凝縮されているぶん、全編をとおしてシリアスで緊張感のある雰囲気が続く紀里谷流『ハムレット』。体力や精神力を相当すり減らすはずだが、それでも役者たちが全力でぶつかっているのが見て取れた。

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クリエイティブの本質を見つめ直すため「あえて無名の役者を使いたかった」という紀里谷さん。オープンオーディションで選ばれた9人の役者はたしかにスキルやテクニックは、名の知れた俳優と比べれば足元にも及ばないだろう。ただ、だからこそ「役を演じている」のではなく「役として生きている」という印象を受けた。

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レイアティーズとの決闘に向かう直前、ハムレットには死んだはずのオフィーリアの声が聞こえる。原作にはないシーンだが、神聖で神々しい雰囲気がとても印象に残っている。オフィーリアの言葉で、憎しみ抜いてきた世界にも、代えがたい美しさがあったと思い出したハムレット。この瞬間に、ハムレットは憎悪にまみれた復讐者ではなくなったのではないかと感じた。

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紀里谷さんは、凝縮された脚本や簡素な舞台装置など、シンプルさを突き詰めた理由をこう語る。

「とにかくわかりやすく表現したかった。だから、デンマークという国名も出さず、登場人物も最低限に。これが、僕が思う『ハムレット』の本質なんです」

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『ハムレット』は世界的な名作だからこそ、多くの人が強い思い入れをもっている。とことん本質を追求し、極めてシンプルに仕上げた紀里谷流『ハムレット』は、専門家や関係者にとってはあまりしっくりくるものではないかもしれない。
でも、シェイクスピアが『ハムレット』という悲劇を通して描きたかったのは、人間の根源的な業についてではないか。それをいかに純粋に表現するか挑戦した紀里谷流『ハムレット』に、シェイクスピアも拍手を送っているのではないか。

(文/近藤世菜、写真/北川直樹)

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